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社会課題に向き合う組織の採用と組織づくり――理念を人材の力に変える方法

社会起業や福祉事業では、採用人数を増やすだけでは組織は強くなりません。必要から事業をつくり、希望につなげるために、理念の伝え方、面接、入社後の関係づくり、対話の仕組みをどう設計するか。人材採用と組織づくりを一体で考える視点を整理します。

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TAISHI
WAKIMOTO
人材採用・組織づくりINSIGHT / 2026.09.12

はじめに――採用は「人を集めること」ではなく、希望を実装する仲間をつくること

人材採用について相談を受けるとき、最初に確認したいのは「何人採用したいですか」だけではありません。むしろ、「何のために、その人材が必要なのですか」と問い直すことが大切です。

社会起業、福祉事業、子育て支援、住まいの支援など、社会課題に向き合う事業では、採用が単なる欠員補充になりやすい面があります。利用者に必要な支援を届けるために人が必要なのは確かです。しかし、目の前の不足を埋めることだけを優先すると、入職した人が事業の意味を理解できないまま働き続けることになり、結果として本人にも組織にも負担が生まれます。

私は、事業は「必要」から始まるものだと考えています。地域や利用者の困りごとを見つけ、その必要に応える仕組みをつくる。その仕組みを一時的な活動で終わらせず、続くものにするには、同じ方向を向いて考え、迷い、改善できる仲間が欠かせません。

だから採用と組織づくりは別々のテーマではありません。どんな社会を実装したいのかを言葉にし、その実現に向けて人が力を発揮できる環境を整えること。そこまで含めて採用です。

1.最初に整理するのは「どんな人が欲しいか」より「何を一緒につくるか」

求人を出す前に、採用したい人の人物像を細かく決めすぎると、かえって本当に必要な人材を見落とすことがあります。「明るい人」「コミュニケーション能力が高い人」「経験豊富な人」といった表現は便利ですが、抽象的なままでは、応募者も組織側も判断できません。

先に整理したいのは、次の三つです。

第一に、現在どのような社会課題に向き合っているのか。第二に、その課題に対して、今の組織には何が足りないのか。第三に、採用した人には、どのような役割を担ってほしいのかです。

たとえば、支援の現場を安定させたいのか、新しい事業を立ち上げたいのか、地域との連携を広げたいのか、業務を仕組み化したいのかによって、必要な力は変わります。現場経験だけが重要な場合もあれば、対話を整理する力、記録や発信の力、他者と協働して企画を進める力が必要な場合もあります。

ここで大切なのは、採用を「完成された人を探す作業」にしないことです。組織の中で育てられる力と、入職時点で必要な力を分けて考える。すべてを最初から求めれば、応募できる人は限られますし、入職後の成長の余地も小さくなります。

採用要件を考えるときは、「この人が入ることで、利用者や地域にどんな価値が増えるのか」「その役割を担うために、絶対に必要な条件は何か」「後から学べることは何か」と問いかけると、求人の輪郭が見えやすくなります。

2.求人票では、きれいな理念よりも「日々の仕事」を伝える

社会課題に関わる組織は、理念や使命を大切にしています。それ自体は重要なことです。ただし、理念だけを大きく掲げても、応募者が働く姿を具体的に想像できなければ、採用にはつながりにくいでしょう。

求人票や採用ページでは、理念に加えて、日々どんな仕事をするのかを伝える必要があります。誰と関わるのか。どんな判断をするのか。忙しい時期には何が起きるのか。現場と事務の連携はどうなっているのか。入職後に最初に覚えることは何か。こうした情報があると、応募者は自分が働くイメージを持ちやすくなります。

また、良いことだけを書くのも避けたいところです。福祉や子育て支援の仕事には、人の人生に関わる責任があります。すぐに成果が出ないこともありますし、関係者との調整に時間がかかる場合もあります。社会課題を扱うからこそ、仕事の難しさや迷いも含めて伝える必要があります。

これは応募者を減らすためではありません。入職後の認識のずれを小さくするためです。実態を知ったうえで応募する人は、理念への共感だけでなく、仕事の現実に向き合う準備をして来てくれます。

求人の文章をつくるときには、「私たちは社会に貢献しています」と書いて終わらせず、「その貢献を、あなたにはどんな仕事として担ってほしいのか」まで具体化してみてください。理念は、仕事の姿に翻訳されて初めて、採用の言葉になります。

3.面接では、見極めるだけでなく、相互理解の時間をつくる

面接というと、組織が応募者を評価する場だと考えがちです。しかし、人材採用は一方通行ではありません。応募者もまた、その組織で働く意味があるのか、安心して相談できるのか、自分の力を活かせるのかを見ています。

面接で確認したいのは、経歴や資格だけではありません。社会課題に関心を持った理由、仕事で大切にしていること、うまくいかないときの向き合い方、他者と意見が違ったときの対話の仕方などです。ただし、模範解答を求める質問になってはいけません。

「この仕事にどんな理想を持っていますか」と聞くだけではなく、「理想と現実が違ったとき、どのように考えますか」「支援方針について意見が分かれた場合、何を確認しますか」といった問いにすると、応募者の考え方が見えやすくなります。組織側も、都合の良い部分だけを説明せず、今後の課題やまだ整っていないことを伝えるべきです。

面接官が複数いる場合は、評価項目を事前にそろえておくことも重要です。誰とでも話せるかという印象だけで判断すると、似たタイプの人ばかりを採用し、組織の視野が狭くなることがあります。理念への理解、役割に必要な力、学ぶ姿勢、協働する力など、何を見るのかを言語化しておくと、採用の納得感が高まります。

採用の場で誠実に情報を交換できる組織は、入職後の対話もつくりやすいものです。面接は合否を決める場であると同時に、これからの関係の始まりでもあります。

4.採用の成否は、入社後の最初の期間に決まる

採用活動が終わり、入職が決まると、一つの仕事を終えたように感じるかもしれません。しかし、組織にとって本当のスタートはそこからです。採用した人が力を発揮できるかどうかは、入職後に何を経験し、誰に相談できるかによって大きく変わります。

最初に必要なのは、理念をもう一度説明することではなく、理念が日々の判断にどう表れるかを伝えることです。利用者との関わりで大切にしていること、記録や情報共有の考え方、困ったときの相談先、失敗が起きたときの対応などを、具体的な場面で共有します。

「分からないことがあれば聞いてください」と伝えるだけでは、質問できない人もいます。定期的に短い面談を設定し、「困っていることはないか」「想像と違ったことは何か」「もっと知りたいことは何か」を組織側から尋ねることが有効です。これは監視ではなく、早い段階で小さな違和感を見つけるための仕組みです。

また、入職者にすぐ大きな成果を求めすぎないことも大切です。社会課題に関わる仕事では、地域との関係や利用者との信頼が積み重なって初めて見えてくることがあります。業務を覚える時間、組織の背景を理解する時間、本人が提案を試す時間を設計する必要があります。

人材を採用しても定着しないとき、本人の適性だけを原因にしてはいけません。役割が曖昧ではなかったか、相談先は明確だったか、採用時に伝えた内容と実際の仕事に差がなかったか。組織の側にも振り返るべき点があります。

5.強い組織は、意見が一致している組織ではなく、違いを扱える組織

組織づくりで目指したいのは、全員が同じ考えになることではありません。社会課題への向き合い方には、現場から見える課題、経営から見える課題、利用者や家族から見える課題があります。それぞれの視点が違うのは自然なことです。

大切なのは、違いが出たときに、立場の強い人の意見だけで決めない仕組みを持つことです。会議では結論だけでなく、何を根拠に判断したのかを確認する。意見を出した人が不利益を受けないようにする。決定後に見直す時期をあらかじめ決める。こうした小さな設計が、組織の心理的な安全性と学習力を支えます。

特に福祉事業やNPOでは、現場の熱意に頼って仕事が進むことがあります。熱意は大きな力ですが、熱意だけでは続きません。記録、業務分担、情報共有、休むためのルール、意思決定の流れなど、目立たない仕組みも必要です。人を大切にするとは、気持ちを尊重するだけでなく、無理をし続けなくても働ける構造をつくることでもあります。

組織づくりを考えるときは、次の三つを定期的に確認するとよいでしょう。「私たちは誰のどんな必要に応えているのか」「今のやり方は、その必要に本当に届いているのか」「働く人が学び続けられる状態になっているか」です。

事業が広がれば、子育て、住まい、親なきあと、AIの活用など、扱うテーマが増えることもあります。そのときに重要なのは、事業を増やすこと自体ではなく、中心にある必要と希望を見失わないことです。組織の軸が共有されていれば、新しい挑戦も単なる拡大ではなく、社会への応答として位置づけられます。

結論――採用は、未来の仲間に「一緒に考えたい」と思ってもらう仕事

人材採用と組織づくりに、どの組織にも当てはまる唯一の正解はありません。事業の段階、地域の状況、利用者の必要、財務の状態によって、考えるべきことは変わります。ただし、どの組織にも共通する出発点はあります。

それは、何のために事業をしているのかを見つめ直し、その目的を日々の仕事にまで落とし込むことです。理念を掲げるだけでなく、どんな役割が必要なのかを整理する。求人では、やりがいだけでなく仕事の現実を伝える。面接では、組織も選ばれていると理解する。入職後は、相談と学びの仕組みをつくる。そして、意見の違いを活かせる組織にしていく。

必要から事業をつくり、希望につなげるには、事業計画や制度だけでなく、人と人の関係を設計しなければなりません。採用は、その関係を始める入口です。どんな人を採るかだけではなく、採用した人とどんな未来をつくるのか。その問いを持ち続ける組織は、変化の中でも学びながら前に進めます。

脇本泰志の著書や講演、社会起業に関する相談では、事業の立ち上げだけでなく、理念を実装するための組織づくりについても考えてきました。採用や人材定着、新しい社会事業の進め方に悩んでいる方は、まず自分たちの組織にとっての「必要」を言葉にするところから始めてみてください。そこに、次の仲間と希望ある社会をつくるための手がかりがあります。

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