えんとかく/脇本泰志/BLOG

採用できないときに見直したい、社会事業の組織づくりと仕事の設計

社会起業や福祉事業で採用が難しいとき、求人媒体や待遇だけを見直しても十分とは限りません。必要から始まる仕事をどう設計し、誰と、どのような希望を実装するのか。採用前に整理したい組織づくりの視点を、現場で使える問いに落とし込みます。

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TAISHI
WAKIMOTO
人材採用・組織づくりINSIGHT / 2026.09.13

採用は、求人を出す前から始まっている

社会事業を続けていると、「人が採用できない」「採用しても定着しない」という相談を受けることがあります。福祉事業やNPOでは、専門性のある人材を必要としながら、限られた収入のなかで事業を運営しなければなりません。採用市場の変化や働き方の多様化もあり、以前と同じ方法で募集すれば人が集まるとは限らなくなっています。

ただ、採用が難しいときに、すぐ求人媒体を変える、募集文を強くする、条件を少し上げるという対応だけでは、根本的な解決にならないことがあります。なぜなら、応募する人が見ているのは、給与や勤務時間だけではないからです。自分は何を担うのか、誰の役に立つのか、どのように成長できるのか、困ったときに相談できるのか。仕事の全体像が見えなければ、理念に共感する人にも届きません。

採用は、人を集める作業ではなく、必要から生まれた事業を、誰と、どのように続けていくかを共有する営みです。必要から事業をつくり、希望につなげる。その軸を組織の仕事として言葉にできるかどうかが、採用の出発点になります。

最初に整理するのは「どんな人がほしいか」ではなく「何が必要か」

採用の相談では、「明るい人」「責任感のある人」「経験者」といった人物像から話が始まることがあります。しかし、その条件だけでは、採用後に何を任せるのかが曖昧なままです。必要なのは、まず事業と現場の課題を分解することです。

たとえば、次の問いを書き出してみます。

・利用者や地域に対して、今どのような価値を届けようとしているのか ・現在のチームで、どの仕事が滞っているのか ・専門性が必要な仕事と、入職後に学べる仕事は何か ・一人で担う仕事と、チームで分担する仕事は何か ・採用しなければ起きるリスクは何か ・採用できた場合、半年後にどの状態を目指すのか

この整理をしないまま採用すると、「何でもできる人」を探すことになります。けれども、何でもできる人はほとんどいません。求める役割が広すぎる求人は、応募者から見ると、仕事の範囲が際限なく広がる職場にも見えます。

社会課題に向き合う事業ほど、現場の仕事は複雑です。福祉、子育て支援、住まい、親なきあとへの備えなど、生活に関わるテーマでは、一つの職種だけで完結しません。だからこそ、「この人には何を任せ、何はチームで支えるのか」を先に決める必要があります。採用とは、足りない人を埋めることではなく、事業に必要な機能を組織のなかに配置することです。

理念は、きれいな言葉ではなく日々の判断に落とし込む

「希望ある社会を実装する」「社会課題を解決する」といった言葉は、社会事業にとって大切です。一方で、理念が大きな言葉のままだと、応募者は自分の仕事とのつながりを想像できません。理念を採用に生かすには、日々の判断に置き換えることが必要です。

たとえば、「本人の希望を大切にする」という方針があるなら、支援の場で意見が分かれたときに何を優先するのか、本人の選択をどのように確認するのか、家族や関係機関とどう対話するのかを示せます。「地域に開かれた事業」を目指すなら、地域の人に何をお願いし、事業所から何を返し、どのような関係をつくるのかを説明できます。

採用ページや面接で伝えるべきなのは、理念の暗唱ではありません。その理念が、会議の進め方、記録の残し方、利用者との関わり、失敗したときの振り返りにどう表れるのかです。応募者は、立派な言葉よりも、「入職したら、どんな場面でこの考え方を使うのか」を知りたいと思っています。

また、理念への共感を一方的に確認するだけでは不十分です。組織の側も、理念と現実の間にある課題を隠さず伝える必要があります。社会事業には、理想だけでは解決できない資金、人材、制度、連携の難しさがあります。そこを誠実に伝えたうえで、それでも一緒に考えたい人と出会う。採用における信頼は、飾らない説明から生まれます。

選考は「見極め」だけでなく、相互理解の時間にする

採用選考を、組織が応募者を評価する場だけにすると、入職後のミスマッチが起きやすくなります。社会事業の仕事では、理念への共感だけでなく、現場で迷いながら対話する力、チームで学ぶ姿勢、役割の変化に対応する柔軟さが求められます。しかし、それらは短い面接だけでは分かりません。

そこで、選考の段階から、実際の仕事に近い問いを共有することが役立ちます。「利用者の希望と安全への配慮がぶつかったら、何を確認するか」「自分だけでは判断できないとき、誰にどう相談するか」「うまくいかなかった支援をどのように振り返るか」といった問いです。正解を当ててもらうのではなく、考え方や相談の仕方を知るための対話にします。

同時に、組織からも仕事の厳しさを伝えます。忙しい時期があること、すべての希望をすぐ実現できるわけではないこと、記録や連携に時間がかかること、未経験の仕事を学ぶ必要があること。こうした現実を隠して採用すれば、入職後に「聞いていた話と違う」と感じる可能性が高まります。

選考の最後には、応募者からの質問を十分に受けることも大切です。質問の内容は、応募者が何を大事にしているかを知る手がかりになります。組織側が答えられない問いがあれば、それ自体を課題として持ち帰る。採用は、組織の弱点を見つけ、改善する機会にもなります。

定着の鍵は、入職後の「分からない」を放置しないこと

採用できた後に重要なのは、早く一人前にすることだけではありません。新しく入った人が、分からないことを分からないまま抱え込まない環境をつくることです。特に社会事業では、利用者との関係、制度上の手続き、家族や地域との連携など、経験しなければ理解しにくい仕事が多くあります。

入職後に確認したいのは、少なくとも次のような項目です。

・最初の一か月で覚えることと、急がなくてよいこと ・判断に迷ったときの相談先 ・記録や情報共有の基本ルール ・失敗やヒヤリとしたことを報告する方法 ・定期的に振り返る時間と、その進め方 ・本人の得意分野を仕事に生かす方法

ここで大切なのは、研修を一度実施して終わりにしないことです。仕事を始めてから出てくる疑問は、本人の理解不足だけが原因ではありません。説明の順番が適切でなかったり、組織のルールが言語化されていなかったりする場合もあります。新人の質問は、組織の仕組みを見直すための貴重な情報です。

業務の整理には、デジタルツールやAIを活用できる場面もあります。記録の下書き、情報の分類、会議の論点整理など、負担を減らせる仕事はあります。ただし、個人情報や機微な情報を扱う場合は、組織のルールや専門家の助言を踏まえて慎重に運用しなければなりません。AIは人の対話を置き換えるものではなく、人が本来向き合うべき時間を確保するための道具として考えるのが現実的です。

組織づくりは、採用人数ではなく「希望が続く仕組み」で測る

採用活動では、応募数や採用人数が分かりやすい指標になります。しかし、社会事業の組織づくりを考えるとき、それだけでは足りません。採用した人が役割を理解できているか、相談できているか、利用者への価値が高まっているか、チームが学び続けられているかも見なければなりません。

定期的に振り返るなら、次の問いが使えます。

・採用した人は、期待された役割を理解できているか ・求人で伝えた内容と、実際の仕事にずれはないか ・特定の人に仕事や判断が集中していないか ・会議は報告だけで終わらず、考える時間になっているか ・利用者や地域の声が、事業改善につながっているか ・働く人自身が、この仕事の意味を語れる状態にあるか

組織は、制度や規程だけでつくられるものではありません。日々の声かけ、会議での発言の扱い、失敗を責めるのか学びに変えるのかといった、小さな判断の積み重ねによって形づくられます。採用を強化したいなら、採用担当者だけに任せるのではなく、組織全体で「どのような働き方を大切にするか」を考えることが必要です。

人材が定着する組織とは、問題が起きない組織ではありません。問題が起きたときに、誰か一人の責任にして終わらせず、必要な仕組みをつくり直せる組織です。そこには、利用者にとっての希望だけでなく、働く人にとっての希望もあります。

おわりに――人を採る前に、希望を支える仕事を描く

人材採用と組織づくりを考えるとき、最初に向き合うべきなのは「どうすれば人が来るか」だけではありません。「私たちは、どのような必要に応え、どのような希望を実装する仕事を、誰と続けたいのか」という問いです。

その問いに答えるためには、事業の必要を整理し、役割を具体化し、理念を日々の判断に置き換え、選考と入職後の対話をつなげることが欠かせません。福祉事業でも、NPOでも、地域の小さな活動でも、組織づくりの基本は同じです。人を都合よく配置するのではなく、一人ひとりの力を生かしながら、必要な価値を届け続ける仕組みをつくることです。

採用に悩んだときは、求人票を直す前に、次の三つを書き出してみてください。

一つ目は、この事業が応えようとしている「必要」。二つ目は、採用する人に担ってほしい「具体的な役割」。三つ目は、その人と一緒につくりたい「希望」です。

この三つが言葉になれば、採用は単なる人手の補充から、事業の未来を共有する対話へ変わります。えんとかくでも、社会起業や福祉事業、組織づくりについて、現場の状況に合わせて考える機会を大切にしています。すぐに答えを出すのではなく、必要を整理し、続く事業と希望のある組織をどう実装するか。一緒に考えることから始められればと思います。

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